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遠闇雲上


 金曜日。仕事から帰宅後、何もやる気になれず布団に顔を埋めたまま訳もない悲しみに暮れ、脳内遺書の執筆に励んでいると目が潤んできたので即座にやめて煙草を吸う。眠りかけたところに友人から電話。取るまいか悩むも一応出てみると涙声だった。聞くに、一か月でふたりの友人が亡くなったらしい。どちらも自殺だったそうで、普段は強気な彼が涙するところにはじめて立ち会ってずいぶんと戸惑った。何度もお前は死ぬなよ、出来るならとと言われて正直ギクッとしてしまう。自ら絶命する勇気なんて結局つかないままきてしまってるし、そしたら田舎に越そうと考えているこの頃だったのだ。電話を終えて堪らず「キッズ・リターン」見返す。浮かべた言葉は永劫回帰、そして煉獄。今の自分にはやはりこれしかないのだという、強い確信を得る。

 

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 翌日土曜日、とはいえ迷う。コンテ作業進まずに雨の中自転車でレンタルビデオ屋へ。適当に未見のもの数本と「海がきこえる」を選び帰宅。翌日の打ち合わせに向け資料など準備しながら、やはりコンテ進まず。諦めてミスド嗜んで寝る。

 

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 日曜日、打ち合わせ。色々話が弾み、良い機会を得られたことが純粋に嬉しい。課題は山積みだけど着実に片付けようと、帰宅後夜中まで映画。「海がきこえる」のファムファタールを再発見しつつ「キッズ・リターン」の林が元々女性の予定だったなんて与太話も過って、点々を自分勝手に繋げてわいてきた気まぐれなやる気を携え一晩缶詰しにマクドナルドへ。近所の店舗が閉まってたときは心が折れかけるも、2駅先までチャリかっ飛ばしたそのままの勢いで朝までに約50cut、コンテ切り倒す。粗はあるけど納得の出来。一旦眠る。次の日は友人らと、友人の犬と目一杯遊んでもらいました。

 

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水曜日。夜22時頃まで喫茶店をハシゴしながら無事にコンテを描き終える。短尺82cutという物量に眩暈がしながら「の・ようなもの」。イメージショットと純な時間軸の入り乱れが妙に心地よいし、デビュー作から「家族ゲーム」に見た団地との向き合い方が既に確立されてて感激。恋、のようなもの。生活、のようなもの。夢、のようなもの。我々はいつまでも誰かのそれを脇見つつ繰り返すのだろうか? 

 

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木曜日。ショッキング、なんて表現がすっとんきょうに聞こえるほどシリアスな事態に一日何も手付かず。燃えたあの社屋には足を運んだことがないが、就職活動の時分に別のスタジオへ招かれたことがある。あのときの求人倍率はきっと私がこれまで潜り抜けた門戸のなかで最も狭かったと思うし、今でもたまに思い出すと誇らしくなったりする。面接ではなにも言えなかったし、筆記試験もからきしだったろうが、だからこそ一度は諦めたあの業界に今自分が立っていることを思うとむしろなにもできない無力さ、哀しみ、悔しさに、本当に胸が痛い。今回の件で京都アニメーションの機能は少しの間止まるかもしれないが、またどこかのタイミングで制作は再開されるだろう(と、信じて待つ他ない。待つことはやはり祈りそのものだ)。とはいえやはり既に亡くなった方もいると報道にあるのがどうしてもやりきれない。戦後最大の放火事件とすら謡われるそれが、どうしてアニメーションの現場で起こる必要があったのか、いや、どこでも起きてはいけないけど、なんでわざわざ……。せめて事故であってくれたならもう少しまっすぐな心持ちでいられたであろうか。詳細が語られる度、明確な悪意の存在に嫌悪と身震い、怒りが止まらなくなる。

 

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自主制作の実写は基本フィックスでレイアウト主義、コマ単位での動き修正も駆使してニセモノをいかに本当らしく出来るか実験し続けているが、その姿勢は日本のリミテッドアニメーションから学んだ節が正直に言って大いにある。なかでも特段、聖地を設定してその土地のシンボルは言うまでもなく、なんでもない路地裏にまで絶対的な意味を含ませんとする京都アニメーションのやり口は今でも自分の骨子となっているし、大学時代にはいよいよその作品の中から聖地そのものまでロケ地として借りてきて、あのスタジオから産まれた作品群の醸す外連味になんとか近付けないかと躍起になった身でもある。

 

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何かを失う度に改めて強く感じる、我々はそういう憧れの手つきをつぶさに観察し、模倣し、時代にマッチするよう研磨し受け継ぎ、暗闇にある次の誰かの手に向けて......たとえ手応えがなくとも自作の頼りないバトンを読んで字の如くやみくもに、送り出すことしか恐らくできないのだろう。帰宅後即、件の自作82cutを読み返す。我ながら、なってない……!と絶望はすれど希望は捨てたくない。こんなこと、もうずっと繰り返してきたけどふと振り返ったら以前よりずっと成長してるなあ、ということもままあるから。永劫回帰だろうが煉獄だろうがそこを徹底的に歩き回って、わずかでも一瞬吹く風が運ぶなにかを血眼で拾い集め、いつか自分なりの形をした武器になるまで。それまでは、もう少し先達の意匠を借りながら精進するつもり。

 

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"欲しいものはいつでも遠い雲の上"